よいこのためのラブソング
コンビニを出ると、途端に冷たい木枯らしが襲いかかってきた。駐車場の隅に吹き溜まった枯れ葉が一斉に舞い上がり、やがてくるくると踊るようにして落ちてくる。僕は上着の襟に顔を埋め、買ったばかりのホットレモネードのペットボトルをポケットの中で握りし…
五条悟
からまるカラメリゼ
「どんだけかけんのソレ」「え?」呆れたような声で言われて顔を上げた。握りしめた細長い小瓶の先から、赤い液体がぽたりぽたりと垂れ落ちる。酸味と辛味の混じった独特の匂いに鼻をくすぐられて、くしゃみが出そうになった私は唇をへの字に曲げてこらえた。…
五条悟
白濁する透明
「あれえ、ごじょおさんだあ~」目的の店に着くより早く、舌足らずに名前を呼ばれてふと顔を上げた。金曜日の二十二時過ぎ、駅から繁華街へと続く通りは飲み会帰りらしい会社員や大学生の集団で賑わっている。僕は向かいからぶつかってきた赤い顔のサラリーマ…
五条悟
溶けた氷が海になる
体育館の入り口に、そこそこ立派な業務用の製氷機がある。部活もないこの学校で一体誰がこんなものを使うのかと常々不思議に思っていたのだが、なるほどこういうときに役に立つのだとぼんやりする頭で考えながら銀色の扉を開けた。盛夏を迎え、都内では連日三…
五条悟
レイニー・ブルー・プラネット
「好き、って言ったらどうする?」ごうん、ごうん、ごうん。低く唸るような機械音の合間をくぐり抜け、彼の声はまっすぐに私の耳まで届いた。けれどもその言葉の意味を測るにはあまりに唐突すぎて、なぜなら私たちはいまのいままで互いに黙々と読書を続けてい…
五条悟
日曜日のねじまき島
※五条視点 なんか、焦げくさいな。まどろみの中で思ったのはそんなことだった。久しぶりのオフだからと昨夜は目覚ましもかけずに寝て、それでいまなんとなく瞼の向こうが明るいから、きっと朝なんだろうということだけがわかる。ぼん…
五条悟
【サンプル】ビターキャラメル・オーバードーズ
※本サンプルは全年齢部分のみ公開しています。本編はR18です。※しゃべって動くモブがいます。なんでも許せる方向け。 始まりが何だったのか、明確には思い出せない。 蝶が花に誘われるように。雨がまっすぐ地面へ落ちるように…
五条悟
【サンプル】おはよう、おやすみ、またあした
書き下ろし①:告白したい高専五条くんの話 「付き合ってほしいんだけど」そのとき、こちらを振り仰いでぱちりと瞬いた瞳を見て、しくじった、と悟った。 二十三時の談話室。テレビに向かって右側の、窓辺に置かれた二人掛…
五条悟
涙は希釈された祈りであること
ひどい夢を見た。ある朝、目覚めたら隣には生ぬるい空白だけが残っていた。整然と切り取られた窓の向こうはただしく晴れ渡っていて、痛いほどの青が果てしなく続いていて、でもその下のどこを探してももうあの人はいない。そのことを私は真っ白なシーツにくる…
五条悟
金魚に飴玉
「あ、五条だ」ぼそっとこぼされた言葉ひとつで、私の肩は滑稽なほど大きく跳ねた。お尻の下では古びたソファがぎしぎし唸り、手元から銀色のスプーンが零れ落ちる。誤魔化すように大袈裟な咳払いをしてみせても後の祭りで、目の前の美人はあでやかな――もと…
五条悟
あまったれチョコクレープ
※前半モブ視点/後半夢主視点 「すいませ〜ん」今日の日差しみたいな、のんびりとした声だった。「はーい! いらっしゃいませ」私はちょうど焼き上がったクレープ生地を手早く脇に寄せ、ぱっとカウンターを振り返った。大きく開いた…
五条悟