七海建人

レイニー、傘に入るかい

※一般人夢主、モブ彼氏あり。   「あ、傘忘れた」お気に入りの折り畳み傘が鞄の中に見当たらないことに気がついたのは、改札を出てすぐのことだった。金曜日の深夜0時近く、残業帰り、外は大雨。どれひとつとっても気が滅…

すきすきシュガー

「ナナミンさーん!」「…………」「あれ? ナナミンさんてば!」「…………」「ナ・ナ・ミン!さん!」「一体何ですかあなたはさっきから」呆れ返った声と共に、その人はようやく顔を上げた。平日真っ只中の昼下がり、律儀にも任務のお迎えにやって来た後輩…

金色にランタン

※twitter再録   「え、いまなんて?」キーボードを叩く手を止めて顔を上げる。頭から爪先まで、実直を絵に描いたようなスーツ姿の男の人が、こちらをじっと見下ろしていた。私の敬愛する先輩、兼、何を隠そう最愛の…

それはつまり愛です

お題企画※少し長いです   「これは何ですか?」透き通る緑色の瞳が、目の前の皿をじっと睨んでいる。二人で暮らす都心のマンションの一室の、ピカピカに磨き上げられたキッチンの片隅。シンプルながら滑らかな曲線が美しい…

アインスタインの花ぎらい

※高専時代〜原作軸の少し前まで  寮で見かけた金髪に声をかけたのは、ほんの出来心からだった。今日は二月十四日で、制服のポケットには小さな固い感触があって、すぐそこに可愛い後輩が座っている。それだけの理由で、私は彼の隣に無…

悪辣と雛罌粟

※高専時代で七海視点※悪ノリ許せる方向け  どすんという鈍い音を上げて、私は強かに背中を打ちつけた。同時に土埃に包まれ眉を顰める。やはり廃墟は好かないな。痛みよりまずそう思ったところで、鈴を転がすような声がした。「――ご…

雨降りとざわめき

※120話後のお話   ぱたぱたと雨粒が窓を叩く音で目が覚めた。重い頭を上げて壁の時計を見る。もうすぐ日が登る時間だというのに、外はまだ真っ暗だった。去年買った小さな電気ストーブの灯が、部屋をぼうっと朱く染めて…

君の君たる所以の光

※七海視点 「ねえねえ七海! 次はあそこ!」弾むような足取りで駆け出した彼女は、後ろを歩く私を振り返って手招きをした。「前を見て歩いてください。転びますよ」「はぁい」聞いているのかいないのか定かでない返事を残して、彼女の姿はショッ…