夏油傑

ハッピーエンドビギナーズ

※教師if、二十代前半くらい  「あ」「あ」高専の事務室の入り口を挟んで、互いに短く声を上げた。扉を開けたわたしの目の前には黒く聳える胸板がある。ちょうどわたしと入れ違いで部屋から出てきたその人はずいぶんと背が高く、でも…

溺れた夏へ

※ハッピーな話ではありません。  金木犀の香りはあんまり好きじゃない。彼がいなくなった後の季節を思い出すから。まだ暑さの残る九月の頃、夏油傑は消えた。突然のことだった、ように私には見えた。私は、夏油傑のことをけっこう気に…

蓮糸の沼へようこそ

※not離反if※ろくでもない元カレとずるずるしています。※甘さ控えめ  「スマホ、鳴ってるよ」言われて、ふと顔を上げた。テーブルの隅に伏せて置いたスマートフォンが素っ気ないリズムで震えている。その鈍い振動に合わせて、目…

愛しのスタビライザー

※高専時代。夏油視点。  「」「いやだ」「まだ何も言ってないだろう」「言わなくてもわかるもん。やだもん」子供じみた口調で言って、はぷいと顔を背けた。ベッドに横向きに腰掛けた彼女を見下ろす形になった私は、そのふくふくと膨れ…

君が知らない話をしようか

※twitter再録※高専時代   「もうだめ……暑すぎ……」倒れ込んだ背中に、じわりとアスファルトの熱が染みてくる。木陰なのにちっとも涼しくない。汗をたっぷり含んだTシャツも、額に貼り付く前髪も、丹念に日焼け…

星はしずかに水没する

※高専時代※暗いです     ひとつ上の学年に、夏油傑という人がいた。背が高く、長い髪を後ろで束ねた、切長の目をした男だった。ニヒルな口許に似合わず、優しく律儀な話し方をするところが好きだっ…