すべて奪われたかった

※五条視点
※暗い話です

 

 

 

 

ナマエの恋人が死んだ。

なんということはない、呪術師にはよくある殉職だ。
呪術師に悔いのない死などない。そう言ったのは誰だったか。

ナマエとは学生時代からの付き合いだった。たった四人のクラスメイトのうちの一人。体術は得意ではなかったが、座学の成績はピカイチの優等生。しかし呪術師の例に漏れずというべきか、やっぱりどこかネジの飛んだところがあり、一緒に馬鹿をして担任の制裁を喰らうこともままあった。真面目そうに見えて、蓋を開ければ天真爛漫、自由奔放。そういうタチの悪いところが嫌いではなかった。

並んで説教を受けながら、担任の目を盗んでは変顔をキメてきたり、授業中にくだらない落書きをした手紙を回してきたり。みんなで夜通しゲームもしたし、都心へ遊びに出たときには、人混みでわざとはぐれたふりをして、半べそになったナマエを腹が捩れるほど笑ってやったこともあった。呪術師のくせに夜道が怖いと言って、深夜にコンビニに付き合わされたこともあったっけ。

当たり前のように、そうやって続いていくのだと思っていた。これからもずっと、自分の隣にはナマエがいて、ナマエの隣には自分がいるのだと。

要するに、青かったし、馬鹿だったのだ。

高専を卒業する少し前、ナマエに恋人ができたと知った。ひとつかふたつ年上の、二級呪術師だと言った。優しくて、いつもニコニコして、穏やかなひとなのだと、はにかみながら教えてくれた。

「あっそ。せいぜい本性バレないように気をつけろよ」
「ひど。五条はほんと意地悪だなあ」

大丈夫、愛されてるから、とナマエは笑った。

手に入らないのなら、そのままどこまでも飛んでいってくれと願った。いっそ届かないくらい幸せになってくれたなら、苦労して飲み込んだあの痛みも、少しは報われたというのに。

 

その報せを受けたときのナマエの顔は、たぶん一生忘れないだろう。

感情も、言葉も、温度も、なにもかもが抜け落ちて、ただただ透明な水のような存在に変わってしまったのだと思った。
あんなにも強く光っていたナマエの輪郭がほどけて、静かに流れ出していくような錯覚を覚えた。たまらくて、その手を取って、繋ぎ止めるためだけに抱きしめた。

狂ったように打ちつける彼女の鼓動だけが、確かに生きているのだと証明していた。

ああ、だから、

すべて奪われたかった

俺のそばにいればよかったんだ。

 

 


卒業して5年後くらいのイメージ

Title by 天文学