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降る福音2

三月にもなれば花屋の店先はもう春一色だ。チューリップにフリージア、スイートピーに桜。ブリキのバケツにお行儀よく収まった花たちを見渡し、深呼吸をする。胸いっぱいに甘酸っぱい香りが満ちて、やがて水仕事で冷え切った指先にまでじんわりと広がっていく…

降る福音1

硝子のかけらのような人だった。轟々と春の嵐の吹き荒れる午後のことだった。満開を迎えた桜の花びらが一斉に狂い降り、辺り一面を覆い尽くしていた。まるで薄紅色の永遠の中に取り残されたように、その人はただひとりきりでそこに立っていた。最初は女の人だ…